生涯でたった2枚のソロ名義アルバム
偉大なる音楽家ジャコ・パストリアスは、1976年にジャズシーンに登場してからわずか10年余りの短い間に数々の名演を残してくれました。もし、ジャコのアルバムの中で最初に聞くべきアルバムは何かと尋ねられれば、ワタシは迷わず『ジャコ・パストリアスの肖像+2 』(左)、『Word of Mouth』(右)の2枚を薦めます。なぜなら(彼の意思によって制作されたという意味で)正規のソロ名義アルバムはこの2枚しか存在しません。そして、この2枚は彼のベーシストとしての超人的なテクニックと、作・編曲家としての才能をあますところなく表現しているからです。
収録内容とアルバムレビュー
ウェザーリポートならこの2枚
ジャコがビッグネームなれたのは、言うまでもなくウェザー・リポートへの加入によるところが大きいわけで、彼の名盤解説をするなら、このジャズ史上希にみる成功を収めたグループを避けては通ることができません。そして、レコメンドの定番メニューとしては『Heavy Weather』を取り上げるのは、ごく当たり前のレヴューなのでしょうが、ここはあえて、彼らがいかにライブ向きのバンドであったか、その魅力が最大限に発揮された『8:30』(左)と『Live and Unreleased』(右)をお薦めしておきましょう。
収録内容とアルバムレビュー
ベストライブならこの2枚
ジャコの功績としてエレクトリックベース奏法に革命をもたらしたことが広く知られていますが、彼は新しいタイプのビッグ・バンド・ジャズを示したことも特筆すべきことです。ジャコが30歳のバースデーを記念して行ったライブにその特徴を見出すことができます。そのライブ音源が『The Birthday Concert』(左)。ジャズクラブの喧騒と、間近で繰り広げられる熱いパフォーマンスは、誰もが目前のステージに居合わせたものと錯覚することでしょう。『TWINS1&2~ライヴ・イン・ジャパン』(右)は、1980年から82年まで開催された「オーレックス・ジャズ・フェスティバル」を総括する形でリリースされたLP盤を、1999年に初CD化してリリースされたもの。こちらはトゥーツ・シールマンスが参加していることで、『Word of Mouth』のライブ版といった趣もあり、やはり外すことはできません。どちらのアルバムもジャコのピーク時を捉えた貴重な記録です。
収録内容とアルバムレビュー
隠れ名盤2作品
さて、「ジャコ名義以外のアルバムでは何が良いか?」と尋ねられたら、わたしは、ジョニ・ミッチェルとの4作品を取り上げたいと思います。その中から何かひとつを選ぶということになると、これはもう大変悩んでしまうのですが、スタジオ録音では『Don Juan's Reckless Daughter』(左)と、ライブならではの臨場感、開放感、演奏者の顔ぶれ、演奏内容、全てにおいてパーフェクトな『シャドウズ・アンド・ライト』(右)になってしまう。ジョニ・ミッチェルとのコラボレーションの中に、ジャズからは少し離れた伴奏者としてのジャコの名演を聞くことができます。下で紹介している映像版の絵を抜いたバージョンではなく、このCD作品にしか収録されてない曲もあるので映像版と合わせて楽しみましょう。
収録内容とアルバムレビュー
ジャコ客演集コンピレーション2枚
メジャーデビューを果たしてから10年余り、ウェザー・リポートの活動と閉口しながら、ジョニ・ミッチェルとのコラボレーションのほか、様々なアーティストとセッションを行いました。そしてその記録はそれぞれのアーティストのアルバムに収録されていますが、中には廃盤となっているアルバムもあり、ジャコの演奏記録の全てをコレクションして演奏を楽しむのは至難の業。そこでオススメするのが『レア・コレクション
』(左)と『ノット・フュージョン・バット・トゥルー・ジャズ
』(右)の2枚レーベルの壁を越えてジャコの貴重な演奏を収集した画期的なコンピレーション盤です。こういう企画は経済的にも大助かりですね!
収録内容とアルバムレヴュー
ギタートリオのジャコを楽しむ
最も人気が高いのは、1976年当時、ジャズ新感覚プレイヤーとして登場したパット・メセニーの『ブライト・サイズ・ライフ』(左)。カントリーライクな作品ながらアグレッシブな部分も併せ持ったECMレーベルの中でも代表的な存在です。一方、ジョン・マクラフリンとトニー・ウィリアムスの最強コンビとジョイントした『The Trio of Doom Live』(右)。こちらは1979年にキューバで開催されたライブの熱いプレイと、同曲のスタジオ録音を収録した作品。メセニーとマクラフリン、まったくタイプの異なるギタリストと組んだ二つのアルバムですが、ギタートリオの中のジャコのベースもまた格別です。
収録内容とアルバムレビュー
ベスト盤ならこの2枚
『Punk Jazz: The Jaco Pastorius Anthology』(左)は、メジャーデビュー前のホームレコーディングの音源、2つのソロ作品、ジョニ・ミッチェルをはじめとするゲスト参加作品などを収録したアンソロジーの名に恥じない内容です。『Word of Mouth』からはほとんどの曲が収録され、オマケにブックレットが付いていることも注目されます。ただ残念なことに、権利上の問題があるのか、ウェザー・リポート時代の演奏は含まれておらず、そこを補完する意味で、ウェザー・リポート在籍時のベストトラックを集めた『This Is Jazz, Vol. 40: The Jaco Years 』(右)を合わせれば完璧なベストコレクションといえるでしょう。
収録内容とアルバムレビュー
映像ならこの2枚
映像で見られるものはブートレグの『Young And Fine Live』や『Live In Japan』を含めても数点しかないので異論も少ないと思うのだが、私のお薦めは2作品。一つは『シャドウズ・アンド・ライト[完全版] [DVD]』(左)。ジョニ・ミッチェルが1979年に行った屋外ライブ、ジャコのほかマイケル・ブレッカー、パット・メセニー、ライル・メイズ、ドン・アライアスが参加。この顔合せもさることながら、最高に格好いいベースソロを、きれいな映像で見られるのはこの作品しかない。もう一つは『ライヴ・アット・モントルー 1976 [DVD]』(右)は、1976年にフランスで放送されたモントルー・ジャズ祭にウェザー・リポートが出演したときのライブ映像。まだデビューしたての初々しさが映し出される。アレックス・アクーニャ(ds)、マノーロ・バドレーナ(per)を従えたウェザー・リポート黄金期の映像なのです。
収録内容とアルバムレビュー
ジャコのルーツを辿る
ジャコの生い立ちとWR時代も含めた数々のアルバムが制作された経緯についてはこの下で紹介している伝記に詳しいが、若年時の驚異的な演奏能力や、その発達過程については、実際に演奏された音でしかその記述を証明することは難しい。ジャコの場合は幸いにもデビュー前の演奏が残されており、アルバムとしてリリースされている。2003年にリリースされた『Portrait Of Jaco The Early Years 1968-1978』(左)はジャコと音楽的な結びつきが深かった人たちのインタビューを軸に、ジャコが残した音源を2枚のCDにちりばめたドキュメンタリー作品。『The Early Years Recordings』(右)はP.O.J.からインタビューをを外し、音源のみをノーカットで収録した純粋な楽曲集である。これらは収録内容に若干違いがあるので、ジャコをとことん知りたいという人は二つとも入手されたし。
収録内容とアルバムレビュー
ジャコを知るための3冊
これはもうリットーミュージックから1992年に出版されている『ジャコ・パストリアスの肖像』(左)に尽きるでしょう。詳細なバイオグラフィ、親族をはじめ、音楽業界関係者、関係が深かったミュージシャンへのインタビューと評伝で構成されたもの。初版はハードカバーで一時絶版となりましたが、ソフトカバーのものが再販されています。ビルの本が出版されてから18年を経た2010年、ジャコが究めた音楽とそのルーツを知る上で貴重な資料となる書籍が出版されました。ジャコ研究の第一人者、松下佳男氏が収集したジャコのインタビュー発言を再編集した『ワード・オブ・マウス 魂の言葉』。ジャコと交流を深めた松下氏しか成しえない書籍です。そして『ザヴィヌル―ウェザー・リポートを創った男』(右)は、キャノンボール~マイルス~ウェザー・リポート…時代とテクノロジーの変遷とともに、音楽のスタイルを大きく変えていったジョー・ザヴィヌルという男をとことん掘り下げた本。当然ながらこの中にもジャコはしばしば登場しています。ザヴィヌルの口から語られた逸話や、死んでしまったジャコへの言葉には、なかなか考えさせられるものがあります。