パット・メセニーは『ブライト・サイズ・ライフ』でジャコと共演する以前、マイアミ大在学以来の友人同士である。彼らは地元のクラブ「バチェラーズIII」のステージを務めていたが、この店にはマーク・イーガンも顔を出していた。イーガンはこの頃ジャコからベースについていろいろ学んだという。
パット・メセニー・グループのクレジットとしては本作がファースト・アルバムとなるが、ソロクレジットの前二作『ブライト・サイズ・ライフ』、『ウオーター・カラーズ』(ベースはエバハート・ウェーバーでこれも秀作)ともに、本作もまたベースの人選が的確である。マーク・イーガンのふくよかなフレットレスベースと、『ウオーター・カラーズ』から参加したライル・メイズを得た初期パット・メセニー・グループの出世作である。#3《Jaco》はジャコに師事したイーガンと盟友に対するメセニーの想いの表れなのだろう。イーガンのベースソロが熱い。
If This Bass Could Only Talk
Stanley Clarke (1988)
- If This Bass Could Only Talk
- Goobye Pork Pie Hat
- I Want To Play For Ya
- Stories To Tell
- Funny How Time Flies (When You're Having Fun)
- Workin' Man
- Tradition
- Come Take My Hand
- Bassically Taps
ジョージ・ハワード、ジョージ・デューク、スチュワート・コープランド(ポリスのドラマー)、アラン・ホールスワーズ、フレディー・ハバードなど豪華アーティストが参加したスタンリー・クラーク1988年の作品。この中でジャコがジョニ・ミッチェルと演奏した《GOODBYE PORK PIE HAT》を取り上げている。イントロなどはどことなくWRのような雰囲気も。ジャコが他界してまもなくの録音というくこともあり、この曲を1984年に日本公演でジャコと共演しした名アレンジャー、ギル・エバンス(88年に他界)とジャコの2人に捧げている。他に、スチュアート・コープランド、アラン・ホールスワースとのセッションや、ジャネット・ジャクソンの《Funny How Times Flies》をカバーしている。ここでは原曲の美しさを損なわず、ナイロン弦のアコースティック・ギターベースのオーヴァーダブで歌い上げる。アルバムのオープニングとクロージングにはタップダンスの第一人者だった故グレゴリー・ハインズとのデュオも収録されている。華麗なタップ・ステップとスタンリーのスラップの即興一発録りには圧倒される。
We Remenber Pastorius
Vairous Artists (1991)
- Teen Town
- They Call Him Jaco
- If 6 was 9
- John Francis
- The Big Burn
- Portrait of Tracy
- Jaco & Joyce
- Bromez Blues
- Two Geniuses
- Fannie Mae
- A View From West Third Street
東芝EMIから出た1991年作品。参加アーティストのオリジナル・コンポジションを含めた全11曲。ジャズ畑からはマーク・イーガン、エディ・ゴメス、ジョーイ・カルデラッツォ、ジョージ・ムラーツ、ウィル・リー、ランディ・ブレッカー、ハイラム・ブロックetc...意外なところではドクター・ジョンの参加も…。オープニングはジョーイ・カルデラッツォ(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、アダム・ナスバウム(ds)のトリオによる《ティーン・タウン》。超速のゴキゲンな演奏です。2曲目《They Call Him Jaco》はドクター・ジョンの渋いR&Bヴォーカルナンバー。イントロにウィル・リーのスラップで《バードランド》のリフが入る。このアルバムいちばんお気に入り。3曲目ジミヘンの《If 6 was 9》はランディ・ブレッカーが全編ミュート・プレイのブルージーな作品。エディ・ゴメス(b)でソロあり。チャールズ・ブレンジグ(p)、ジョー・ボナジオ(ds)のカルテット。4曲目はジャコの本名からとった曲名《John Francis》。ちょっとパット(メセニー)に似たグレン・アレキサンダーのギターをメインにした純フュージョン・サウンド。ベースはM・イーガン(ソロあり)、ドラムはケンウッド・デナード。キーボードはスコット・ヒーリー。5曲目はギタリスト、アンディ・ブロックのコンポジション《The Big Burn》。前曲のメセニー調とは一変、ロック色濃厚なギターが楽しめる。ベースはA・ジャクソン。曲調がRTF的(笑)。5分弱でフェード・アウトが惜しい!6曲目はオープニング・トラックの《Teen Town》のピアノ・トリオによる《Portrait of Tracy》。ジョージ・ムラーツのベース・ソロが素晴らしい。7曲目《Jaco & Joyce》はギターのグレッグ・アレクサンダーの曲。こちらも4曲目と同じメンバーで演奏されたライト・タッチなフュージョン。イーガンのソロはないけどジャコ的なノリと奏法がちょこちょこっと顔を出して微笑ましい。8曲目は3曲目と同じワンホーン・カルテットによる演奏。E・ゴメスとR・ブレッカーの共作《Bromez Blues》。作曲者二人の名前を曲名にしたブルースだとか。この曲のランディのラッパはオープン。9曲目《Two Geniuses》はジャコと画家ゴッホに捧げられた曲。ロブ・アライアスの安っぽい音のシンセのイントロが気になる。ジョー・ボナジオのパーカッションとのデュオ。10曲目は2曲目と同じメンバー+H・ブロックそしてバックのブラス陣にクリス・ボッティが入った(!)お馴染みの《Fannie Mae》!ヴォーカルはウィル・リー。説明不要のファンキー・ナンバーです。ラストはジャコのスリービューズ…になぞらえたバラード《A View From West Third Street》。チャールズ・ブレンジグのピアノ・ソロで締めくくり。ジャコの曲は少ないけど楽しめました。2011年現在廃盤。
Just Advance
Kenwood Dennard (1992)
- Just Do It
- Just Desserts
- Just Phrases
- Just Blues
- Just Drums/Just Get Started/Justice
- Teen Town
- A Full Heart Today
- Just Duo
- Just Advance
- Purple Rain
ジャコと親交が深かったドラマー、ケンウッド・デナード1992年の作品。他にマーカス・ミラー(b)、ハイラム・ブロック(g)、デルマー・ブラウン(key)、チャールズ・ブレンジグ(key)が参加したスタジオセッション。収録曲はジャコの《ティーンズ・タウン》、プリンスの《パープル・レイン》などをカバー。マーカス・ミラーは1993年の自身のアルバム『THE SUN DON'T LIE』(下に掲載)でも《ティーン・タウン》をカバーしているが、ここでも冴えたプレイを聞かせてくれる(フレットレスの演奏は一曲のみ)。ハイラム・ブロックのギターもブルージーで良い。もう10年以上前の作品だがここには昨今のマーカスのリーダー作で聞ける演奏スタイルがぎっしり詰まっている。
The Sun Don't Lie
Marcus Miller (1993)
- Panther
- Steveland
- Rampage
- The Sun Don'T Lie
- Scoop
- Mr. Pastorius
- Funny (All She Needs Is Love)
- Moons
- Teen Town
- Juju
- The King Is Gone (For Miles)
ジャコとマイルス・デイビスに捧げたマーカス・ミラーのアルバム。デイビッド・サンボーン、ウェイン・ショーター、ジュー・サンプルら参加ゲストも多彩だが、コンポーズ&アレンジ、そしてベース以外にバスクラリネットを演奏するなど、マーカス自身の多芸多才ぶりも発揮している。ベースソロ《ミスター・パストリアス》と、お得意のスラップで“マーカスらしさ”をプラスした《ティーン・タウン》が興味を引く(前年にも下に掲載したケンウッド・デナードのアルバム『Just Advance』で同曲を演奏している)。後者はハイラム・ブロックがソロの中で《バードランド》のフレーズを引用するなど粋な演出がなされている。日本国内盤に、はレイラ・ハサウェイのヴォーカルをフィーチュアした《ラウンド・ミッドナイト》がボーナストラックとなっている。
Stone Free
A Tribute to Jimi Hendrix
Vairous Artists (1993)
- Purple Haze / The Cure
- Stone Free / Eric Clapton
- Spanish Castle Magic / Spin Doctors
- Red House / Buddy Guy
- Hey Joe / Body Count
- Manic Depression / Seal And Jeff Beck
- Fire / Nigel Kennedy
- Bold As Love / Pretenders
- You Got Me Floatin'/ P.M.Dawn
- I Don'T Live Today / Slash And Paul Rodgers With The Band Of Gypsys
- Are You Experienced ? / Belly
- Crosstown Traffic / Living Colour
- Third Stone From The Sun / Pat Metheny
- Hey Baby(Land Of The New Rising Sun) / M.A.C.C.
1993年にジミ・ヘンドリックス生誕50年を記念して制作されたトリビュート盤。いかにもクラプトンらしい歌いっぷりのタイトル曲をはじめ、ジェフ・ベック、プリテンダーズ、ポール・ロジャース、リヴィング・カラーなどのアーティストが参加。ジャズ界からはパット・メセニーがジャコが大好きだった《THIRD STONE FROM THE SUN》を演奏。しかもジャコの(ごくわずかな)ベース音源をサンプリングしてループさせている。ジャコの音だけを目当てに買うと肩透かしを食らうが、ジミのトリビュート盤の中では、没後25年目にリリースされた『In from Storm: Music of Jimi Hendrix』(サンタナ、スティング、ジョン・マクラフリン、スティーブ・ルカサー、スタンリー・クラーク、トニー・ウィリアムスなどが参加)と共に佳作である。プロデューサーは両アルバム共にジミのオリジナル・アルバムのエンジニアだったエディ・クレーマーである。
Sci-Fi
Christian McBride (2000)
- Aja
- Uhura's Moment Returned
- Xerxes
- Lullaby For A Ladybug
- Science Fiction
- Walking On The Moon
- Havona
- I Guess I'll Have To Forget
- Butterfly Dreams
- Via Mwandishi
- The Sci-Fi Outro
ハービー・ハンコック、ダイアン・リーブス、ジェームズ・カーター、ジャズ・ギタリストのデビッド・ギルモア、そしてジャコと親交の深かったトゥーツ・シールマンスらが参加したクリスチャン・マクブライドのソロ第4作。スティーリー・ダンの《アイジャ》や、スティングの《ウォーキング・オン・ザ・ムーン》をカバーするなど選曲も“今どき世代”を感じさせる。主にウッド・ベースをプレイしているアルバムだが、ウッドによる“アコースティック・ハヴォナ”は意外にもにもオリジナルを忠実にトレースしたもの。同郷の先輩ベーシスト、スタンリー・クラークのセカンドアルバム『Children of Forever』に収められた「バタフライ・ドリームス」は、得意のアルコ弾きを交えた演奏。ウッドベースとエレクトリックベースの両刀使いのスタイルは、スタンリー・クラークがもっとも早く世間に認められたが、その同郷の先輩に敬意を示した形だ。
Portrait Of Jaco
Brian Bromberg (2002)
- Portrait Of Tracy
- Contnuum
- Teen Town
- A Remark You Made
- Three Views Of A Secret
- Tears
- Slang
- Come On, Come Over
- The Chicken
- Teen Town (Piccolo Bass Version)
1960年、アリゾナ生まれの技巧派ベーシスト、ブライアン・ブロンバーグのジャコ・トリビュート盤。自身のオリジナル1曲と、ザヴィヌルの1曲を除き全てジャコの曲。テクニックが素晴らしいのはもちろんだが、斬新なアレンジにも驚かされる。特にスローテンポとなった《TEEN TOWN》だが、これは好みが分かれるところ。エレクトリック、アコースティックを自在に使い分け、またオーバーダビングで、全てをミックスさて作り上げるジャコワールドは、これまで制作された他のトリビュート盤とはひと味もふた味も違うものだ。ジャコ自身のの演奏と比べてどうこう言うのは野暮。ブロンバーグなら全編ウッドだけで、アコースティックなフォーマットのみの演奏というのも面白かったかも。
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TOWER
HMV
インポート盤『Jaco』は基本的に同内容だが《カム・オン・カム・オーバー》のインスト版を追加した11曲で曲順も異なる。ジャケットもご覧のとおりの力の入れよう。
The Best Of Marcus Miller
Marcus Miller (2003)
- Scoop
- Spend Some Time With Me
- Panther
- Nadine
- Home
- Nikki's Groove
- Goobye Pork Pie Hat
- I Want To Be There (Unusual Girl)
- Juice
- Could It Be You
- Serious
- Running Through My Dreams (Interlude)
- Ethiopia
- Forevermore
- Run For Cover
- Just What I Needed (New Version)
マーカス・ミラーは自ら「『Jaco Pastoriusの肖像』に衝撃を受け、幾日もこのアルバムが自室のターンテーブルの上にあった」と語っているほどの崇拝者。ジャコのトリビュート盤にも必ずといいほどその名を連ねており、自身のアルバム『The Sun Don't Lie』と、ケンウッド・デナードの『Just Advance』でも《ティーン・タウン》をプレイしている。
このアルバムは、1984年のソロデビュー~ジャマイカ・ボーイズ~1997年の『Live and More』までのベスト盤(1998年リリースの日本限定企画盤である。そこに2001年リリースの『M2~パワー・アンド・グレース』から《NIKKI'S GROOVE》と《GOOD BYE PORK PIE HAT》の2曲を追加して、2003年にリイシューされた。ジョニ・ミッチェルとジャコのコラボによる《GOOD BYE…》とは大きく異なる世界観だが、これはこれでまた良し。《RUN FOR COVER》はこのアルバムでしか聞けない特別なもの。熱いベースソロが聞けます。
Moodswings
A Tribute to Jaco Pastorius
Maurizio Rolli & A.M.P. Big Band (2003)
- Donna Lee Jam
- Three Views Of A Secret
- Teen Town
- Goodbye Pork Pie Hat
- Donna Lee
- Wing And A Player
- Havona
- Continuum
- Invitation
- Portraite Of Lucy
- D-Jaco
イタリアの奇才マウリッツォ・ローリのトリビュート盤は、ウッドベースと、エレクトリックベースを巧みに使い分けてジャコの曲をカバーしている意欲作。ビッグバンドと女性ヴォーカルをフィーチャーし、独自のアレンジでジャコに捧げた。《ドナ・リー》はアレンジの異なる2曲を収録する熱の入れよう。《スリー・ビューズ・オブ・シークレット》では、ジャコが『ワード・オブ・マウス』で見せたビッグバンドスタイルを再現、トゥーツ・シールマンスのパートをヴォーカルが担っている。原曲に大幅に手を入れるのではなく忠実性を重んじた作品だが、マウリッツォの独自性も失われていない好盤。生前ジャコと親交の深かったマイク・スターンが自作の曲(1998年のトリビュート盤『WHO LOVES YOU』にも収録)で花を添えている。
Munia The Tale
Richard Bona (2003)
- Bonatology (Incantation)
- Kalabancoro
- Sona Mama
- Painting A Wish
- Engingilayye
- Dina Lam (Incantation)
- Balemba Na Bwemba
- Muto Bye Bye
- Bona Petit
- Couscous
- Playground
- Liberty City (Bonus Track)
ジョー・ザヴィヌルがウェザー・リポート解散後に結成したザヴィヌル・シンジケートは、ジャズを母体としながらもワールドミュージックを先駆けて取り入れたグループである。リチャード・ボナは1995年にこのグループに加入した。1967年西アフリカのカメルーン出身のボナが最初に手にした楽器はギターだったが、13歳になって『JACO PASTORIUS』を聴き、ベーシストになる決意を固めたといわれる。22歳でフランスに渡り活動していたところをジョー・ザヴィヌルに見出された。ケニー・ギャレット(as)や、フランス時代の盟友サリフ・ケイタ(vo)が参加した本作はソロ3作目となる。全曲ボナのオリジナルでアフリカ、ブラジル、カリブなど世界各地の要素が融合したワールド・ミュージックである。弾きまくるのではなくサウンドの一部として巧みに組み込まれたベース音からは、音楽家としての素養も十分に兼ね備えていることがわかる。ジャコのトリビュートはあらためて制作したいというボナだが、日本盤のボーナストラックでは15分にも及ぶライブ演奏で《リバティ・シティ》をカバーしている。
Soul Circus
Victor Wooten (2005)
- Intro : Adam
- Victa
- Bass Tribute
- Prayer
- Natives
- Can'T Hide Love
- Stay
- On And On
- Cell Phone
- Back To India
- Soul Circus
- Higher Law
- Take U There
- Ari's Eyes
- 15Outro : Kids
- Bass Tribute (Reprise)
ヴィクター・ウッテンといえば、ジャコ世代以降の超絶技巧のベーシストの一人であり、『WORD OF MOUTH REVISITED』にも参加し、同じく技巧派ベーシスト、スティーブ・ベイリーと組んだ『Bass Extremes - Cookbook』では、《Glorius Pastorius》と題した曲もレコーディングしているジャコ崇拝者です(と勝手に決めつけています)。で、2005年に発売された本作は、ウッテンのファミリーアーティストで脇を固めたなんともファンキーなアルバムである。オープニングの《VICTA》ではブーツィ・コリンズをヴォーカルに迎え、続く3曲目では、そのブーツィの他、スタンリークラーク、ジャコ、ジェームズ・ジェマーソン、ラリー・グラハム、マーカス・ミラーetc...を同じスタジオに招き、演奏させてしまいました。というのは冗談なんだけど、そのような曲にしてしまった中で、《ティーン・タウン》を引用したりで、あきらかに、ジャコをはじめとする歴代のベースプレーヤーに対してパロディでリスペクトしているのです。当然全てがパロディなわけではなく、EW&Fのカバー《CAN'T HIDE LOVE》では渋いベースソロを決めてくれたり、ヴォーカルあり、ラップありのなんとも多彩な内容で、ジャコ云々といわずに楽しめます。ブーツィの他、ウィル・リー、スティーブ・ベイリーらが参加。
Tiki
Richard Bona (2005)
- Tiki
- Dipama
- Kivu
- O Beta O Siba
- Esoka Bulu(Night Whisper)
- O Sen Sen Sen
- Manyaka O Brasil
- Three Woman
- Ba Senge
- Ida Bato(Ancient Song 1789)
- Akwa Samba Yaya
- Calcabao De Copacabana
- Samaouma
- Nu Sango
カメルーン出身のベーシスト、リーチャード・ボナの4作目にあたる『tiki』。ジャコの影響下にありながらも独特の粒立ちの良いトーン、そして裏打ちされたテクニック、母国語の「ドゥアラ語」の囁くような素朴なヴォーカルがボナの作品の特徴である。なので、ベースソロを思いっきり聴こうものなら肩透かしを食う。リーダーアルバムは、ヴォーカルアルバムとして聴くのが正しいのであって、ベースプレイを堪能したいのなら、ゲスト参加作品を聴くと良い。ところで本作だが、ほぼ全編を通して自身のヴォーカルをフィーチュアした点では前作の延長線上にあるといえるが、サウンド的にはインド音楽、ボサノバ、サンバ、カリプソなどの要素を取り入れ、よりポップな印象。ゲストではジャヴァン、ギル・ゴールドスタイン、マイク・スターン、ヴィニー・カリウタらが参加。ギル・ゴールドスタインのアレンジによるストリングスとフレットレスベースが絡む《Three Woman》はジャコに捧げたもの。そしてシンプルでジャジーな《Esoka Bulu》が異彩を放つ。ワールド・ミュージックかジャズかどうかといったジャンル分けは無意味である。オススメの一枚。
Under Rousseau's Moon
Live at Blue Note
Gil Goldstein (2006)
- Moon Struck One
- Donna Lee
- Three Women
- Good Morning Anya
- Bass Solo
- Boplicity/Some Skunk Funk
- Sarah's Touch
- Percussion Solo
- Liberty City
- Three Views of a Secret
- Camel's Lament
- Moondreams
- Suninga
このアルバムは相互リンクしていただいているリチャード・ボナのファンサイト、The Wind of Savannaの掲示板からリリース情報をキャッチ。2006年1月にNYのブルーノートで行われたライブを収録したもので、アコーディオン、キーボード奏者であり、アレンジャーとしても活躍しているギル・ゴールドスタインが主宰したもの。彼は1950年生まれということでジャコとほぼ同い年になる。1970年台からジャズの世界に入り1981年にはギル・エヴァンス・オーケストラへ加入し編曲の腕を磨く。この間にパット・メセニーやジャコと共演していることはご存じの方も多いでしょう。
さて、このライブ盤の中身はというと…なんと、ドラマーがいない!そのかわりにドン・アライアス(per)が参加。このほか、リチャード・ボナ(b)、ランディ・ブレッカー(tp)、マイク・マイニエリ(vib)、クリス・ポッター(sax)、ストリングスも加わる。このコンサートは各人のオリジナルが含まれるが、ソングリストを見ても分かるとおり基本的にはジャコに捧げられたものだ。なじみの曲も斬新にアレンジし直されているし、ストリングス、ヴィヴラフォンの参加が新鮮だ。ドラムレスだから退屈なんてことはまったく感じない。それにつけても#5のボナってスゴイね。2006年3月末に急逝したドン・アライアスの最終録音の可能性が高い。選曲、人選、アレンジ全てが最大限に効果を上げているベストライブ。ぜひ聴いてみてください。
Tribute To The Brecker Brothers
Yoichi Murata Solid Brass & Big Band
featuring Randy Brecker
- Some Skunk Funk*
- Donna Lee*
- The Chicken*
- Domino*
- Three Views Of A Secret*
- Bad Attitude*
- Strap Hanging**
- Freefall**
- Sponge**
- Levitate**
- Elegant People**
- Some Skunk Funk**
- *--Solid Brass Session
**--Big Band Session
トロンボーン奏者村田陽一率いるソリッド・ブラスによるブレッカー・ブラザース・トリビュート。2008年6月に浜松で行われたコンサートの模様を収めたライブ盤。スペシャル・ゲストにランディ・ブレッカーを迎え、前半6曲はソリッドブラスとランディの9名、後半はベース、ギター、パーカッションを加え、ホーンの数をさらに増やした総勢20名によるビッグバンドによる演奏(#1、#2はランディは不参加)。
収録曲はランディの参加に配慮した内容で、ジャコのビッグバンドで何度も演奏したであろう《The Chicken》、《Three Views Of A Secret》、《Donna Lee》、《Elegant People》などをカヴァー。ブレッカー・ブラザースの十八番《Some Skunk Funk》は、ソリッド・ブラス・バージョンと、ビッグ・バンド・バージョンでそれぞれ収録。
聴き所はソリッド・ブラスバージョンの《The Chicken》。ドラムス以外は全て管楽器だからチューバがベースラインを延々とキープ。ほとんどの曲でソロをとるランディのワウワウ・エフェクトのトランペットと、もの凄い音圧で迫るブラス・セクション。“ジャコ好き”、“ホーン好き”にはたまらないエキサイティング・ライヴ。
Hands
Brian Bromberg
- Stella by Starlight
- Cute
- Solar
- Beatles medley(Day Tripper~Yesterday~Eleanor Rigby)
- Black Orpheus
- In A Sentimental Mood
- King Of Pain
- Teen Town
- Susumu's Blues
- Use Me
- Black Dog
- SWhat Are You Doing The Rest Of Your Life ?
- Yeah
エレクトリックとアコースティック、どちらも来い!のスーパー・テクニシャン・ベーシストの一人、ブライアン・ブロンバーグが、ジャズのスタンダードからビートルズ、スティングらの代表曲をアコースティック・ベース一本で演奏して見せた。ブロンバーグは、2002年に多重録音を駆使したジャコのトリビュート盤『Portrait Of Jaco』を制作しているだけに、今回のアコスティック・ベースのみでどのような演奏となっているか興味が尽きない。
ジャンルを飛び越えた選曲もさることながら、今回も圧倒的なテクニックで迫ってくる。やっぱりスゴイ!私のようなベースフリークには満足できるものであろう。注目した#8《ティーン・タウン》は、オリジナルに近いテンポを得て『Portrait Of Jaco』収録の演奏より好感が持てる。曲のエンディングに《Portrait Of Tracy》を挿入するなど、ジャコ・ファンのツボをしっかり押さえてグッド。全編ベース一本の生録りと思われるそのサウンドはとても艶かしく、ダイナミック!録音も素晴らしい。
ただ、全曲ベース一本と言うのはちょっと退屈な感じがしないわけではない。テクニックはバッチリなので、自作曲比率を高めたアルバムで勝負して欲しい。過去作にカヴァー作品が多いブロンバーグ、もうすぐ50歳ということで年齢的にももう一花咲かせてください。
Bright Fortune
中村梅雀
- Everyday
- The Chicken
- Always
- Misty
- First Step
- Rain
- Memories
- John The Spider
- Spain
- Soyogi
- School Days
- Bright Fortune
俳優中村梅雀さんは12歳からエレクトリック・ベースの練習に打ち込んできた。その演奏はもちろんプロ級の腕前である。ジャコの大ファンであり、ジャコが20歳のときに弾いていたジャズ・ベース(通称:ブラック・ベース)の現在の持ち主でもある。その梅雀氏が2008年に初めてリリースしたジャズ・アルバムがこの『Bright Fortune』。
自作曲9曲のほか、チック・コリアの《スペイン》、ジャコの《Chicken》、スタンリー・クラークの《スクール・デイズ》といったカヴァー曲も収録されている。さて、その気になる演奏内容だが、#2《Chicken》はハーモニカとスティール・パンがメロディーを奏でるジャコ・トリビュート。曲の途中で・4ビートに。ハーモニカのソロが渋くい!バックのベースもブリブリとジャコっぽい音になっていた。
このアルバムでいちばんビックリしたのは#11《Schhol Days》。この曲の中で主役を張ったのは三味線や鼓といった和楽器!曲の出だしこそスタンリー・クラークのトレード・マークのあの弾き方で始まるが、メロディーを奏でるのは三味線だった(笑)。曲のいちばんオイシイところを演奏するのは和楽器というアイディア。これは、梅雀さんだから許されるアレンジですね。恐れ入りました。
梅雀さんは曲によって、所蔵のベースを持ち替えているようで、そのベースの音の違いを楽しむのもまた楽しいのである。全体的に爽やか系フュージョン・アルバムであるのは、その人柄が映しだされたものなのだろう。タイトル曲のベース・ソロが沁みます。
My Dear Musiclife
櫻井哲夫(2009)
- リジェネレイト
- ティーン・タウン
- ブライト・モーメンツ
- メロディア
- 哀愁ファンク
- ドミノ・ライン
- ミラージュ
- リンゴ追分
- クル
- アフター・ザ・ライフ・ハズ・ゴーン
2009年9月にリリースされた櫻井哲夫デビュー30周年記念アルバム。スペシャルゲストにボブ・ジェームスを迎えている(#4)。ソング・リストで興味をそそるのはジャコの《ティーン・タウン》、《クル》。そして美空ひばりの歌唱で知られる《りんご追分》、カシオペア時代の代表曲のひとつ《ドミノ・ライン》がどんなアレンジになっているか気になった。
《クル》はベースがジャコのオリジナルと同様のスピードでグイグイ迫り、カルロス菅野のパーカッションがドン・アライアスばりに躍動感を与えている。その上に浮遊するフェンダー・ローズが実に気持ち良い。《ティーン・タウン》もジャコのような太い音で録れていて、ひと工夫も二工夫も施されたイントロを除けば、曲が始まると原曲にかなり近い印象。素晴らしいグルーヴ!
櫻井は「ジャコをプレイする時はメロディーやコード進行をモチーフにあとは自由に…というのではなく、細部の表現方法、グルーヴ、ベースの歌わせ方など全てをまず完全にコピーして理解したい。それが僕の彼に対する敬意であり、彼の音楽にはそれだけの価値がある」と語っている。なるほど、ジャコの2曲においてはそのコメントを裏付ける内容になっている。
《りんご追分》は意表を突くアコとのデュオ。しかもこれがとてつもなくカッコ良いファンク・ミュージックに生まれ変わっているではないか!このアルバムのハイライトと言っても良い。《ドミノ・ライン》は懐かしさはもちろん、曲の中盤のスラップ・ソロでしっかり見せ場を作ってくれている。このノリの良さと言ったらもう最高!!です。
実は私の初ライブ体験はカシオペアで、ステージに向かって左サイドの最前列、つまり櫻井哲夫の真ん前で観ていたことがある。カシオペアは私の中でも特別な存在なのだ。
Aventureiro(Jaco Pastorius Tribute)
Jurgen Attig
- Aventureiro
- White Viper Waltz
- Da Wall
- Canarsie
- Sinomkhuseli Wethu
- Sempre
- Velvet Zone
- High Jock
- Cactus Pie
- The Pan Handler
2012年4月にリリースされたドイツ人ベーシスト、ユルゲン・アッティグ(読み合ってるか?)のジャコ・トリビュート・アルバム。彼は1990年代にハードロック・グループCASANOVAの一員として、ファースト・アルバムをリリース。のちにジャズを中心とした活動にシフトするためにグループを脱退した。
このアルバムでアッティグはフェンダーのフレットレスを中心に弾いており、奏でられる音はジャコが弾いていたトーンに極めて近い。テクニックも申し分ないし、近年のジャコ・フォロワーの中でもかなりジャコ度が高いベーシストの一人と言えよう。
トリビュート盤と言いながらジャコの曲は一切入っていない。そしてこのアルバムで展開されているのは意外にもワールド・ミュージックだったりする。ドイツ人の彼が挑んだジャズは同じヨーロッパ(ウィーン)出身のジョー・ザヴィヌルが取り組んでいた音楽とダブるかもしれない。各曲でベースソロを披露しながらも出しゃばる所はなく、トータル・サウンドを重視する姿その中で間違いなくジャコを意識した曲がちらほら。ジャコの高速スイング曲《デニア》を想起させる#9《Cactus Pie》。またクロージング#10《ThePan Handler》は、曲の中盤からジャコの幻のサード・アルバム『ホリデイ・フォー・パンズ』収録の《Holiday for Pans》を想起する。曲の終りにジャコの2番目の夫人だったイングリットから提供されたジャコの笑い声が挿入されている。
このアルバムはゲスト奏者も豪華で、オセロ・モリノウ(steel-dr)、ランディ・バーンセン(g)、ロバート・トーマスJr.(per)などジャコとの共演歴のあるミュージシャンのほか、ラウル・ミドン(vo)の名前もクレジットされている。録音はジャコの故郷、フロリダ、フォートローダー・デイルで行い、イングリッドの全面的な協力を得て制作されたようだ。このアルバムを聴いて、ユルゲン・アッティグはこれから追っかけて行きたいアーティストの一人になった。
下はソニーミュージックのオフィシャルPV。収録曲の一部を試聴できる。
↓youtube↓
Around Jaco
Frederic Monino
- Continuum
- Round Trip / Broadway Blues
- Bright Size Life
- Punktroduction
- Punk Jazz
- Three Views of a Secret
- Teen Town
- Liberty City
- Speak Like a Child / Kuru
- Used to Be a Chacha
フランスのベーシスト、フレディリック・モニーノのジャコトリビュート盤。日本で紹介されるのはこのアルバムが初めてといってよいだろう。オフィシャルサイトによれば、15歳でベースを始め1988年から本格的な音楽活動をしているという。本作以外のレコーディングも多いが、日本では紹介されたことがない。2313年8月発売の本盤は、2006年に初版が出ており、今回新装パッケージでリイシューされたものであった。
肝心の内容だが、まず収録曲のラインナップに注目。ジャコの『肖像』、『ワード・オブ・マウス』からの選曲を中心に、ジャコが参加したパット・メセニーの『ブライト・サイズ・ライフ』から《ブライト・サイズライフ》と《ブロード・ウェイ・ブルース》を取り上げている。4曲目の短曲《Punktroduction》は次曲《Punk Jazz》のイントロ部分をアレンジしたもの。
モニーノは5弦のフレットレスを使ってジャコのニュアンスを再現。アルバム全体としてジャコのオリジナルに近い感触なのだが、ほとんどの曲でアコーディオンが使われるなど、フランス人らしい味付けが施されている。随所でトゥーツを彷彿とさせるハーモニカや、ヴィブラフォンが使われているのがミソ。とても巧いベーシストで選曲も良いのだが、一つ注文をつけるなら曲順がこれで良かったかな…という印象。AmazonのMP3ダウンロード販売ページで試聴可能。
It's A Jaco Time
櫻井哲夫JACOトリビュート・バンド
- Invitation
- Liberty City
- Three Views of A Secret
- (Used To Be A) Cha Cha
- Palladium
- Las Olas
- Portrait of Tracy
- Continuum
- River People
- Havona
櫻井哲夫は2009年の自身のアルバム『MY DEAR MUSICLIFE
』でも《ティーン・タウン》や《クル》を取り上げたこともあるし、2006年のジャコのアンソロジー『PLAY JACO
』では《ポートレイト・オブ・トレイシー》、《スラング》を録音した。折を見ては各地でジャコのトリビュートライブを行っている。そんな彼が満を持してスペシャルバンドを結成してジャコに臨んだのが本作『It's A Jaco Time』である。このバンドのレギュラーメンバーは本田俊之(sax)、新澤健一郎(key)、菰口雄矢(g)、ジーン・ジャクソン(dr)。一曲スポット参加のゲストに渡辺香津美(g)、ケイティー・ハンプトン(vo)を迎えた。
ソングリストはご覧の通りジャコのコンポジションを中心にした10曲。過去作で櫻井が収録したものは省く方向で選曲したとのこと。とはいいつ《ポートレート・オブ・トレイシー》は『PLAY JACO』以来二度目の収録となった。一曲目から聴き進んでいくと意外にもオリジナルに近いアレンジに安心しつつ、反面、今一つ面白みに欠けるのではと思うところもあったが、7~9曲目のアレンジは見事!特にハンドクラップの打ち込みとテクノっぽいバッキングで浮遊するフレットレス・ベースのコントラストが見事な《ポートレート・オブ・トレイシー》、(《REZA》のような)野性的なリズムの打ち込みリをバックに繰り広げられる《コンティニューム》、意表を突くスラップのアプローチが新鮮な《リヴァー・ピ-プル》は面白く、過去に様々なベーシストがカヴァーしたものとも一線を画する。
いちリスナーとして一つワガママを言わせてもらうとすれば、一曲ずつジャコ縁のアーティストが入っていたらどうだったかなと…例えばピーター・アースキンや、ボブ・ミンツァー、ランディー・ブレッカー、マイク・スターンなどがスポット客演。そんなことがあったらこのアルバムもレジェンドになっていたかも。でも、これはこれですごく良く練られているアルバム!なので良しとします。
このアルバムのCDジャケットで櫻井氏が着用しているTシャツは、このアルバムのために制作された特別なものだとか。初版発売を記念してタワーレコードのウェブサイトで別途購入できるという。